世界にはたくさんの法則がある。

木から落ちる林檎のように目に見てとれるものがあれば、恋人たちが深夜に交わすような、ごく一部の間でのみ通じる隠された法則なんてものもある。

 

先日、バーで偶然隣り合わせた人と球撞きをすることになった。

ゲームには人の親睦を深める力があって、一戦交えた後に彼はこう聞いてきた。

 

「彼女はいるの?」

「いや、それがいないんです」

「えぇ〜どうして?マスター、誰か女の子を紹介してあげなよ」

 

若者に異性の恋人がいないのは確かに不自然なことだけれど、僕の場合は何か深い理由があったわけではない。ただ予約の電話をかけるのが面倒で予定を先延ばしにしただけのことである。

 

外に出ると、コートを着た男女が腕を組み足早に街灯を抜けて行った。

 

いつか読んだ本に書いてあった。

世界に存在する熱量は一定に保たれている。

ならば、僕一人がサボったところで何も変わりはしないのだ。

 

小さな点で生まれた熱が、長い時を経て繋いだ手を温めている。

そうして新たな熱を生み、何千年の物語を育んできたこの惑星はなんて奇蹟的で美しいことだろう。

ひとり布団を温めながらそんなことを思った。